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八丈島の防災レベルをアップデート! 微細な変化を計測するIoTセンサーの実力

水害や土砂災害の予兆を捉える防災モニタリング実証実験の現状

地質調査、建設コンサルタント、銀行、シンクタンク、インキュベーターといった企業5社が集い、東京の離島・八丈島をスマート化するプロジェクトが進められている。2020年末から同島を舞台に実施されているのが、「スマート防災」の実証実験。IoTセンサーを起点に災害を事前察知する仕組みだが、今後の防災対策にどう役立っていくのか。実証実験に参画する応用地質株式会社の担当者に、現状とビジョンを聞いた。

離島のスマート化、喫緊の課題は「防災」

2020年末、東京都心部から南方へ200km以上先にある八丈島で、スマートアイランド化に向けたプロジェクトの一つが動き始めた。

応用地質株式会社、日本工営株式会社、株式会社みずほ銀⾏、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(旧、みずほ情報総研株式会社)、株式会社Blue Labの5社が、東京都⼋丈町と共同してスマート防災に関する実証実験を開始したのだ。

実証するのは、センサーによる異常値の察知と情報伝達。八丈島内に2種類のIoTセンサーを設置し、河川や土地の変化をモニタリングする。取得したデータをクラウドサーバーに集約し、あらかじめ設定した値を超えたとき、アラート情報が関係者に通知される仕組みとなっている。

スマートアイランドとは、ICTやドローンなどを活用し、離島が抱えた課題を解決に導ける社会環境を指す。簡単に言えば、最先端技術で“住みやすい町”にしていこうというものだ。2020年8月にみずほ銀行と八丈町が包括協定を結び、主にキャッシュレス化に向けたプロジェクトを進め始めた。すると、町から抽出した課題において、防災面の比重が非常に大きいことが分かった。

一方で、別のところで動いていた、地質調査や防災・減災に強みを持つ応用地質と、建設や電力の分野でコンサルティング事業を行う日本工営も、協力してスマートアイランド推進に一役買いたい考えがあった。今回の実証実験は、みずほ銀行らの動きに2社が合流した形だ。

八丈島におけるスマートアイランド化のイメージ。デジタルテクノロジーの活用によって、さまざまな地域課題を解決へと導く

地球温暖化などによる気候変動の影響は、日本でも気象状況の大変化で誰もが知るところだろう。台風の大型化、豪雨による水害や⼟砂災害など、全国各地で数多くの被害が発生している。

同実証実験の舞台となる⼋丈島は、年間降水量が3000mm超の多雨地域であり、複雑な地形と地質の性質によって土砂災害の危険エリアも多数ある。言葉は適切ではないが、新たな技術の有効性を測る上で最適なフィールドともいえる。

八丈島に設置されたIoTセンサーの事前防災力

八丈島内には、冠水センサーと傾斜センサーという2種類のIoTセンサーが設置されている。応用地質が開発したもので、これが同実証実験の核と言っても過言ではない。

1つ目の冠水センサーとは、危険な増水の状況を検知できるというもの。河川や用水路、池や堤防などに設置し、増水、越水、越流などによってセンサーが水没(冠水)すると、クラウドサーバーに情報が送信される。

例えば、河川の壁面に高さを変えて多段設置すれば、水位の上昇に従って、注意・警戒・避難のレベルに応じた通知をすることもできる。

製品名は「冠すいっち」。センサー部(左)は80×80×45mm、通信部(右)は130×325×50mm、質量は共に1.1kg。リチウム電池で動く

センサーを水位のレベルに合わせて設置すれば、河川の状況が分かるようになる

2つ目の傾斜センサーは、地表面の傾斜を検知できる機器だ。

応用地質の製品「クリノポール」は、0.001度までの細かい傾斜を計測できる高分解能と、気温の変化などによる外部影響が小さいデータの安定取得性能の高さが大きな特徴となる。

これを利用すると、山の斜面のわずかな傾斜変化をいち早く察知し、地滑りや表層崩壊の予測ができるようになる。

製品名「クリノポール」。通信部は175✕130✕47mm、センサー部は直径25×長さ1000mm

地面に穴を掘り、センサー部を挿入するため、外部影響を受けにくい。設置が簡単なのも魅力

検出する情報は異なるが、2つのセンサーには多くの共通点がある。

導入しやすい価格帯であり、バッテリーを交換せずに最大5年間の連続稼働が可能。クラウド上でデータが一元管理できる上、危機的状況が発生する前に段階的なアラート通知を行うことができる。

低価格でロングライフ、手が掛からず管理もしやすい。まるで家電製品のうたい文句にも聞こえるが、こうした方向性になったのは、「防災には膨大なコストがかかるため」と応用地質 計測システム事業部 サービス開発部の中野大介氏は防災対策の実情について話す。

「崖が崩れたとなれば、人が行き、高価な機械を運んで復旧する。その後も変化に応じて対応する。それがこれまでの災害対策でした。後手後手に回ると、どうしてもマンパワーと費用が短期間に、かつ膨大に必要となるスキームになってしまいます。昨今の豪雨災害や土砂災害に対して“事前防災”ができないか。そうした課題を解決できるツールだと思っています」(中野氏)

雨量の変化で水位が微増する河川や、傾斜がわずかに変わっている斜面など、災害の発生場所には目視では分からない兆しもある。たとえ過去に何もなかった場所だとしても、高精度のセンサーを活用すれば、医師の聴診器のように潜在的な危機の早期発見につながることは間違いない。

「今回使用しているIoTセンサーは、昨年から本格的な販売を開始した製品ですが、既に国内で数百台程度が稼働し、導入数も伸びている状況です。そうしたことからも、社会の危機意識が高まっていると感じます」(中野氏)

暮らしや事業の地盤となる土地のどこが弱いのか、はたまた強いのか。場所によって対策の要不要が見極められれば、防災の壁ともいうべきコスト削減にもつながるだろう。

傾斜センサーの観測データは、クラウド上でダッシュボードやトレンドグラフなどで閲覧できる

事前防災から被災地のアフターケアまで

スタートして半年以上が経過した実証実験だが、「期待しているのは今後」だという。というのも、島内にセンサーを設置したのが出水期(しゅっすいき。一般に6~10月頃の川が増水しやすい時期)の終わりだったため、今年の春までは検知や発報はなかった。

出水期に入ってからは何回かセンサーが反応しているといい、今後、町の担当者から実際の状況をヒアリングしながら検証を進めていく予定だ。

設置したIoTセンサーからのデータがまとめられたモニタリングの管理画面。現状、冠水センサー1台と傾斜センサー2台が島内に設置されている

このシステムによって、八丈町には2つの変化が生まれる可能性がある。応用地質 情報システム事業部 事業企画部の堀越 満氏は実証実験の価値について、こう話す。

「水位の変化などがモニタリングされていない地域は、住民からの通報や町の職員によるパトロールで初めて状況が把握されます。センサーによってリアルタイムに状況が把握できれば、初動のリードタイムを確保できます」

人の目視による定期的なパトロールだけに頼る必要がなくなるのも大きい。当然ゼロにはならないが、人手の少ない離島にとって貴重な存在となるだろう。その先に成果が見えてくれば、離島という特殊な環境で検証していることが、日本全体のメリットにもつながっていく。

離島は、発災後の対応を“閉じられた世界”の中で完結しなければならない。もちろん外部からの支援はあるものの、手が届くまでの時間は島内だけでこらえる必要がある。つまり、事前の準備や初動体制の整備が非常に重要となってくる。

そうした課題を抱える町は、国内に山ほどある。他の離島は当然ながら、本州でも中山間地域は同じような状況だ。住民の高齢化が進み、人が少なく、行政担当者もわずかとなると、都市部と地続きだとしても課題は似てくる。

八丈島で得られた知見は、そうした地域の財産にもなる。本当に自治体の支援につながるのかが、実証実験における今後の評価ポイントになりそうだ。

国内の離島は6847島(本州、北海道、四国、九州、沖縄本島を除く)。内、有人島は416島(国土交通省発表、2021年4月1日現在)※平成27年国勢調査結果に基づく有人離島の数を都府県に聞き取り。内水面離島である沖島(滋賀県)を含む

写真:TOKO / PIXTA(ピクスタ)

今、考えるべき防災対策はコロナ禍の避難所運営

具体的には話せないと前置きしながらも、堀越氏が八丈島での今後の計画について教えてくれた。一つは、現状3カ所の計測地点を増やすモニタリングの多点化。もう一つは、住民全体にも周知できる情報伝達のブロードキャスト化だ。

実証規模の拡大を目指すことが今年の目標としながらも、検討すべき重要事項がもう一つあるという。それは、コロナ禍にどう対応するか。

「実際に対応が必要なことの多くは、災害が起こった後に発生します。発災したら当然、避難所が開設されます。現在の社会状況だと、もしコロナウイルスの感染者がいた場合、どういうオペレーションをするのか。果たして離島で対応できるものなのか。そうした点も考慮しながら、今後の実証実験を進めていく予定です」(堀越氏)

避難所の密をどう回避するのか、発熱者をどう見つけるのか、居場所をどう分けるのか。そうした課題は、離島でなくともしばらく地域に横たわり続けるだろう。これまで危機を発見し、情報を届けるところまでをゴールとしていた設計を、大きくアップデートする必要性を感じているそうだ。

「恐らく、防災に関わる個々の課題を解決する方法やツールは、既に存在していると思います。ただ、総合的に解決できるようなパッケージはありません。発災前後を一貫して対応できる取り組みが今後求められてくるのだと感じています」(堀越氏)

今年4月に締め切られた「スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定」の公募でも、ほとんどの地方公共団体の提案には、ICTを活用した防災の在り方が示されていた。先端テクノロジーを使い、命や財産を守るというスマート防災への期待値は高まっている。

「ただ、災害対策用の体制を常に維持するのはなかなか難しいこと。ですので、日常的に手を掛けない“監視”という方法は、非常に価値が出てくる思います。さらに、そうした情報を地域共有できる財産にできれば、個人、企業、自治体それぞれにメリットがあると考えています」(堀越氏)

情報の共有は、個人情報の取り扱いなどセンシティブな問題もはらんでくる。そこは議論を重ねる必要はあるものの、データ活用の先に得られるリスク回避の方がはるかに重要性は高い。

町における防災力の高め方。センサーで定点観測し、誰もがすぐに異常を察知できる情報連携が、近い将来の“住みたい町”を選ぶ条件の一つとなるかもしれない。

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