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暮らしを変える蓄電技術

災害レジリエンスに効果が期待される蓄電池の役割

蓄電池は災害時の事業継続や生活維持の備えとなる

電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの本格普及に伴い、注目が高まる「蓄電技術」。本特集第2回では、蓄電池のニーズ拡大を視野に、日本が持つ幅広い技術に目を向けていくことが今後の発展の鍵であると説いた。第3回は、防災の観点で蓄電池がどう活用できるのか、早稲田大学 スマート社会技術融合研究機構 石井英雄研究院教授に話を聞いた。

電気がないことの不便さを多くの人が体験

防災の観点から蓄電池に注目が集まるきっかけとなったのは、東日本大震災だ。甚大な被害をもたらしたこの災害により、東日本では広範囲で停電が発生した。その後、停電による影響を分散させるために実施された計画停電では、1都8県においても1日3時間程度の停電を約2週間経験した。

「この事態により、電気が使えないことがいかに不便なのかという認識が一般に広がりました」と話すのは、早稲田大学の石井英雄教授。

「東日本大震災を機に、政府は補助金を投入して蓄電池の導入を促進し、その後、太陽光パネルと共に住宅にも徐々に普及しています。ここをきっかけに、電気をためておくことの重要性に多くの人が気付いたのです」

再び災害の観点から蓄電池に焦点が当たったのは、2018年に起きた北海道胆振(いぶり)東部地震。日本で初めてとなる大規模停電(ブラックアウト)が発生し、北海道全域に影響を及ぼした。さらには、台風や局所豪雨などの自然災害も全国的に増加。そうした中、自立的に電気を使える環境があったことで助かった、という事例も少しずつ知られるようになってきた。

「自動車から電気を供給してレジを動かし、営業を続けた北海道のコンビニエンスストアの事例は有名ですが、その他にも、停電で困らなかったところは軒並み蓄電池や発電機を持っていました。少しでも電気があることで被害を防ぐことができる、という実例は貴重です」

北海道のコンビニエンスストア「セイコーマート」では、電気自動車にインバーターを接続し95%の店舗で営業を継続した(写真はイメージ)

蓄電池だけでは導入メリットが少ない?

デジタル化が進む現代において、電気は欠かせない。気象災害もさらなる激甚化・頻発化が予測される今、蓄電池の需要は確実に高まっている。しかし、注目度とは裏腹に、まだまだ導入が進んでいないのが実際のところだという。

「いざというときへの備えは実感するのが難しいものです。電気の大切さを知っていても、100万円もかかる蓄電システムを自宅に導入するかというと、なかなか現実的ではありません。それだけコストをかけても、大規模な停電は10年に1度程度と言われていますから、普及を進めるには、もっと別のベネフィットが必要なのです」

停電時に素早く立ち上がり、事業や生活を継続することを可能にする蓄電池は、災害レジリエンスに大いに役立つことだろう。しかし、それだけでは普及を加速させるまでには至らないというのが石井教授の見解だ。

「東京都におけるレジリエンスの定義、つまり電気エネルギーをどれだけ自立できればよいのかというと、72時間と言われています。その間に電力系統の大部分は復旧するという計算です。ただ、72時間も賄える容量の蓄電池は価格も跳ね上がり、コスト面で導入がなかなか難しいのが現状です」

そこで注目されているのが太陽光発電の併用だ。

「家庭向け太陽光+蓄電池システムでは、性能面、コスト面共に進化が進み、システム全体で10年以内に初期費用の元が取れるくらいになってきています。一般的には、5〜10kWhの容量の蓄電池と太陽光パネルの組み合わせが多く、これを自宅に取り入れれば、平時は光熱費を抑えることで経済的なメリットを享受しながら、災害時の備えになるでしょう」

蓄電池は平時の利用用途を考えることが大切(図はイメージ)

平時に蓄電池をどう生かすかが、普及加速の鍵

蓄電池を太陽光発電と組み合わせることで、平時にも役立てる。この方向性を突き詰めていくことが普及を加速させる鍵だと石井教授は言う。一般家庭では経済的メリットが際立つが、同じく蓄電池の活躍が期待できる自治体では、どのような事例があるのだろうか。

「自治体でも脱炭素化を目標として庁舎に太陽光発電設備を導入するケースが増えており、そこに蓄電池をセットで取り入れるのはよくある話です。しかし自治体の場合は賄わなければならない電気も多く、ネックになるのは、災害がいつ起こるか分からないということです。日没後に地震が起こり、翌日が雨だった場合、蓄電池にためた電気はすぐに使い果たしてしまうでしょう。試算では3日間雨が降り続き、太陽光発電でほとんど充電できない確率は低いものの、支えとなるにはより確実なシステムが求められます」

一昔前までは、石油やガスによる自家発電のシステムが第1候補だったが、近年は脱炭素化の観点から導入が難しい。そこで最近では、EVの活用が模索されているという。

「EVには容量の大きな蓄電池が積まれている上、自走可能です。災害時には避難所に集めて電源として利用したり、電気が必要な場所に派遣したりするなど、フレキシブルな使い方が可能になります。公用車や地域の路線バスのEV置き換えが今後も見込まれますので期待が持てます」

石井教授も自身が手掛ける研究の中で、災害時にEVを電源として活用する方法を、さまざまな角度から調査しているという。

「一番活用しやすいのは路線バスです。路線バスは時刻表を基に運行しているため、どこでどれだけ充電をするかも計画ができます。常に電池残量が一定量ある状態で運用すれば、いざというときには電源として活用できるでしょう」

地域の循環バスとして活用されているEVバス(写真はイメージ)

また、自治体が考えなければいけないのは、住民だけではない。通勤・通学、観光などを含む交流人口に対しても、どれだけのリソースを最低限確保するのか。蓄電システムの導入にあたっては、細部まで調整が必要だ。

「どんな方法が適しているのかという検証はこれからの段階ですが、一つの指標となるのが、環境省が支援を行う『脱炭素先行地域』の施策です。2030年度までに脱炭素化を実現する先駆的な取り組みを支援していくもので、日本全国から100カ所の自治体が選ばれ、モデルケースとして横展開していくのが狙いです。その中でもEVは確実に活用されるでしょう」

蓄電池のメリットを発揮できる新技術にも期待

蓄電池と組み合わせる技術の進歩にも期待したいと石井教授は言う。

「さまざまな分野で脱炭素に向けた新技術の開発が進められています。新しい選択肢が出てくると、蓄電池の良さをもっと生かした複合的なシステムを実現できるようになるかもしれません。例えば、水素、アンモニア、e-FUELなどのカーボンニュートラル燃料が台頭してくれば、従来の発電機と蓄電池を組み合わせることで、安価に災害レジリエンスを高めることができるかもしれないわけです」

石井教授は次世代電力供給システムの国際標準化組織で議長も務める

そうした技術の進歩の先にある蓄電システム、そしてレジリエンスとは、究極的に電力のシェアリングエコノミーを実現していくことだと石井教授は提言する。

「情報を共有する仕組みが非常に発達した現代では、インターネットを介して遊休資産の活用を促進しやすくなっています。そこで、今後蓄電システムの普及が進めば、電気が足りない人と余っている人をマッチングすることで、社会全体で必要になる設備を減らしていくことが理論的には可能になります。そのとき、調整力である蓄電池は、今よりももっと社会的に重要なツールとなっていることでしょう」

豊かな社会の実現のため、いま、世界が注目する蓄電池。少し出遅れている感のある日本だが、長年に渡って積み重ねてきた蓄電技術に目を向けてみると、将来的に活用が期待できる多様な蓄電池があり、そこに様々なビジネスチャンスが潜んでいることが分かった。技術の進歩によって、ますます社会的な役割が増していく蓄電池から、今後も目が離せない。

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