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まるでSFアニメに出てくるロボット!災害現場での復旧活動&子どもたちに夢を抱かせるマシン

四脚クローラー(無限軌道)方式を採用した双腕型コンセプトマシンを徹底解剖

大量の土砂を掘り、積み込んだり、重たい鉄骨や大きな丸太を担ぎ上げる建設機械。総じて「重機」と呼ばれるが、ショベルカーやダンプカー、クレーン車など、用途によってそれぞれ車両のタイプも分かれている。では、一つの重機に複数の機能を持たせたらどうなるのだろうか──。それをカタチにしたのが、日立建機株式会社が造った四脚クローラー方式双腕型コンセプトマシンだ。

憧れをカタチにしたいという夢をかなえる

重機でありながらコンパクトなサイズ感。

前方に向かって伸びた2本の腕と独立した四脚クローラーが印象的なスタイル。

SFアニメに出てくるロボットのようなたたずまい。

しかし、もちろんこれはSF映画のために造られたロボットではない。グローバルで活躍する大手建設機械メーカー、日立建機が造り上げた四脚クローラー方式双腕型コンセプトマシンだ。

人と比べると、やや小ぶりなその重機の大きさが分かる

2本の腕、前後に分かれ、それぞれが独立して駆動するクローラー。そのフォルムからして、重機というよりもロボットのようだ

「20年ほど前、ガンダムのようなロボットを造りたいという思いで入社してきた技術者がいたんです。それが始まりでした」

造った経緯をそう説明してくれたのは、日立建機株式会社 ブランド・コミュニケーション本部 広報戦略室の小俣貴之さんだ。

コンセプトマシンを自ら操縦する、日立建機 広報戦略室の小俣貴之さん

「実はこのコンセプトマシンには、先代モデルと呼べるものがあります。その技術者が最初に造った『ASTACO(アスタコ)』という重機です」

2005年に開発したASTACOも、今回のコンセプトマシンと同じく双腕型。

それまでの重機ではできなかった、つかみながら切る、支えながら引っ張り出す、長い物を折り曲げる、柔らかく壊れやすい物をそっと持ち上げるといった動作を可能にした。

「ASTACOはすでに商用化されています。納品したのは東京消防庁でした。元来は木造家屋の解体などで活用することを考えていましたが、災害復旧や救助活動に使用できるということで、採用していただきました」

派生モデルも多い。2011年3月に発表した「ASTACO NEO(アスタコ・ネオ)」は、その直後に東日本大震災が発生すると、直ちに復旧の現場に投入された。

「その年の5月に宮城県の南三陸町と石巻市に行き、街中と海沿いで災害復旧に取り組みました。当時の現場は津波のために鉄骨から何からぐちゃぐちゃになっている状態。とても普通の重機では対応できなかったんです。鉄骨を持ち上げて、引っ掛かっているものがあれば切断する。街中でひっくり返っているトラックも、ASTACO NEOならその場で鉄とアルミなどに分別できます。そうすれば処理も早く進みますからね」

本来は解体現場で仕分け作業ができるようにと開発されたASTACO、そしてASTACO NEOだったが、「少しでも世の中のお役に立ちたい」(小俣さん)という思いで駆け付けた被災地で獅子奮迅の働きをすることになる。

コンセプトマシンの前身となったASTACOシリーズ

そして東日本大震災の復旧現場での働きが、重機のさらなる可能性を広げていくことになる。

「東北での働きがきっかけで、防衛省に試験導入をしていただきました」

こうして実践の場数を踏んで進化してきたASTACOシリーズ。そのさらに一歩先に行こうというのが、このコンセプトマシンなのだ。

2本の腕に通常のクローラーが備わる2代目のASTACO NEO。東日本大震災の復興現場で作業に従事する様子

ASTACOに四脚式クローラーを取り付けたらどうなるのか

重機の新たな可能性を広げたモデルとして活躍したASTACO。しかし、まだ改良すべきポイントは残っていた。

「例えば、足回りです。ASTACOは通常のクローラーのため、路面が凸凹しているような場所だと安定して作業ができません。東日本大震災で経験したような災害現場では、地面はもちろん安定していません。となると、足を自由に動かせる機構が必要となるのです。

でも、ノウハウはありました。以前、上回りが油圧ショベルで、足回りが四脚クローラーというものを造っていたんですよ」

四脚のクローラー(走行時に回転するベルト状のもの)は、それぞれ鉄のチェーン部とゴム製のシューに分かれる

その発想にたどり着いた日立建機の開発陣は「腕が2本あって、クローラーが四脚というと、もうロボットだな」と印象を語り合ったと、小俣さんは当時を振り返る。

そうして生まれたコンセプトマシンには、さまざまな“遊び心”と“新たな試み”が施された。

例えば、コクピットは通常の横からではなく真正面から乗り込むスタイル。そこからしてSFチック。しかも透明のキャノピーが上方に跳ね上がって開くのだ。

コンセプトマシンのコクピット

中央のジョイスティックが走行用。左右のレバーで2本の腕を操作する。モニターには四脚の姿勢状態などが表示される

「運転席に座ると、本当にロボットに乗っているみたいですよ。

走行するときは真ん中のジョイスティックを使います。腕を操作するのは通常の油圧レバーではなく、シートの左右に備わる電気式レバー。上下と前後、それを命じるボタンがあります。

それこそガンダムのコクピットのイメージですね」

運転席に座るとこのような視界となる

これほどまで随所にこだわりを見せるコンセプトマシンだけに、開発にかかるコストも気になるところ。

「開発コスト? それなりにかかってますね(笑)。

その意味で言えば、2本の腕もそうです。通常は鉄で造るのですが、これはアルミ製ですから。

狙いはもちろん軽量化です。鉄製と同レベルの強度ながら、操作性も良くなりますし、車両全体のエネルギーバランス、効率としてもフロントヘビーにならないので運転操作がしやすいですね。スペックとしては片腕で500kg程度のものまで持ち上げることができます。削り出しなのでコストは…かかりますね」

アルミを削り出して造られた2本の腕。鉄製に比べ、大幅な軽量化を実現している

動力はディーゼル。コンセプトマシンにも最先端のクリーンディーゼルが採用されている。

「環境性能には非常に前向きに取り組んでいます。というのも、グローバルでビジネスを展開する中で、欧米と日本は特に排出ガス規制などが非常に厳しいですからね。エンジンメーカーさんと協力しながら開発に取り組んでいます。だから、今のディーゼルエンジンの排出ガスというのはとてもキレイ。昔のような黒煙はもう出ませんしね」

コンセプトモデルの運転自体は、「慣れれば誰でもできると思います」と小俣さんは言う。ただし、両腕のコントロールについては、機構が複雑になっているために自在に操るには高度な技術が必要になるそうだ。

「優れた技術を集めて、さらに先進的なアイデアを盛り込み、“世の中の重機は将来こうなるかもしれない”という思いで造ったのが、このコンセプトマシンなのです」

奥に見えるオレンジのボックスの中にディーゼルエンジンが収まる。ホースの中に通るのはオイル。これで油圧シリンダーを動かす

正常進化しながら、夢のある重機も造りたい

重機の未来の姿をカタチにしたという、四脚クローラー方式双腕型コンセプトマシン。これは日立建機が目指す、一つのモデルケースに過ぎない。

「例えば、大型ダンプトラックの自律運転は実用化されていて、2019年以降に商用化する予定です。…と言っても、市販車のように公道を走るものではありませんよ」

ここでいう自律運転は、オーストラリアやアフリカなどの鉱物採掘場などで活躍する、300tクラスの大型ダンプトラックを対象としたものだ。

「そのような現場では、走るルートが決まっているんです。油圧ショベルが採掘した鉱物を決められた場所に運ぶわけですからね。とはいえ、路面状態は変わります。そこはセンシングして対応しなければなりません」

他にも、中型の油圧ショベルの半自動運転も、既に実用化しているという。

「今後は少子高齢化が進み、熟練オペレーターが減少していくと考えられています。そんなとき、誰でも簡単な操作でコントロールできるよう、制御技術を進化させています」

コンセプトマシンの奥に見えるのは、鉱山で使用する大型重機。分解し、パーツごとにコンテナに収めてオーストラリアやアフリカ、アメリカなどへ向かう

日立建機は今や世界にその名を知られる建設機械の大手メーカーだ。それゆえに次の時代を目指した重機の開発を進めるのは、使命のようなものだろう。

しかし、その一方で今回紹介したコンセプトマシンのようなものを生み出そうとする土壌があるメーカーでもある。

「他の会社はやらないと思います。費用もかかりますしね。でも、これには意味があると思ってやっています。これを造ったというモチベーションが、絶対に次につながります。実際にASTACOシリーズの開発・製作に携わった技術者は何人もいて、彼らは今、油圧ショベルなどの量産機の開発をしています。培ったアイデアは、その現場でも無駄になっていないはずです」

小俣さん自身、子どものころから「機動戦士ガンダム」や「機動警察パトレイバー」に夢中になっていたそうだ。そして今は、建設機械の面白さを広く世の中に伝えていきたいと考えているという。

「子どもたちを対象としたイベントには積極的に参加したいと思っています。そこでこのコンセプトマシンを見て、さまざまな思いを感じてもらいたいのです。現実的な未来を見据えながら、これからも夢のある重機を造っていきたいですね」

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