特集
カーボンニュートラルのいろは

2050年までにCO2排出量ゼロに! 富士通が挑むゼロエミッション計画

液侵サーバーで消費電力の軽減も! ITで取り組む地球温暖化対策とは

二酸化炭素(以下、CO2)の排出と吸収が“プラスマイナスゼロ”になるようエネルギー使用環境を構築し、実社会に組み入れていく「カーボンニュートラル」。国を挙げて推進されるそのコンセプトは、ビジネス文脈の中でこそ実現に向けて最適化を図らなければならない。世界の大企業がこぞってその取り組みを進める中、「2050年までにCO2排出量をゼロにする」と宣言した日本企業、富士通に現状と今後の展望を聞いた。

世界中の大企業が見つめるカーボンニュートラル

「省エネ技術や再生可能エネルギー(以下、再エネ)を組み合わせ、地球環境に優しいサステイナブルな企業活動を実践していく」

多少の違いはあれど、これが世界の名だたる企業が目指す「カーボンニュートラル」の具現化の方向性だ。現在、世界各地では多くの企業がカーボンニュートラルへの注力を表明しており、既にいくつかの成果が報告されている。

世界で最も有名なIT企業の一つであるGoogleは、膨大なエネルギーを発散するデータセンターの冷却システムに人工知能(AI)を導入し、エネルギー使用量を30%削減することに成功したとしている。また同社では、2017年に風力発電と太陽光発電から得られる電力を、大量に購入できる調達販路を確保。結果、データセンターのエネルギー100%を再エネで代替(相殺)することに成功したと公表した。

一方、グローバルEC大手・Amazonは2040年までに自社の事業活動においてカーボンニュートラルを達成すると公言。その施策の一つとして、配送用の電気自動車を10万台発注した。また、詳細は未発表だが、2030年までに全出荷物の50%をネットゼロ・カーボン(年間を通して温室効果ガスの純排出量をゼロにするという考え方)にするという目標を掲げたプロジェクト「Shipment Zero」を発表している。

では、日本企業はどうか。今回、日本を代表するエレクトロニクスメーカー・富士通のサステナビリティ推進本部・山崎誠也部長と、川田宏幸マネージャーが教えてくれた。

富士通株式会社 サステナビリティ推進本部の川田宏幸マネージャー。環境戦略立案、展開に従事し、中長期環境ビジョンなどを手掛けた

富士通では脱炭素社会の実現に加え、企業として地球の気候変動への適応に貢献するため、2050年までに自社のCO2排出量ゼロ(以下、ゼロエミッション)を目指す中長期環境ビジョン「FUJITSU Climate and Energy Vision」を策定したという。

「かねてからビジネスの舞台裏では、CO2排出量を問題視する指摘や動きがありましたが、2015年12月にパリ協定が採択されたことが、ビジョンを策定することになった最も大きな理由です。パリ協定をきっかけに、市場や規制、そして社会システムそのものが劇的に変化していき、2050年以降はゼロエミッションが企業として必須になる。経営視点からも重要なファクターになると考え、弊社のサステナビリティ推進本部の前身である環境本部で検討を始めることになったのです」(川田氏)

富士通が挑むゼロエミッション

富士通がゼロエミッションに向けて取るアプローチは大きく2つ。一つは「省エネ」、もう一つが「再エネ」だ。

富士通が排出するCO2は、石油やガスなどの燃焼由来は少なく、「大部分は電気によるもの」と山崎氏は言う。そのため、省エネに関しては、電気使用量が特に多い工場とデータセンターを中心に削減を進めているという。これは世界のITメジャーと同じ動きともいえる。

富士通株式会社 サステナビリティ推進本部の山崎誠也部長。長年、環境関連の企画・推進業務に取り組んできた

「消費電力を8~9割カットするというのは現実的に難しい。それでも、ここ2~3年で、国内・国外含め、工場や生産ライン、データセンターごとに診断や定期チェックを行い、なるべく消費電力を抑えるよう全体の最適化を進めてきました。また、弊社では、省エネに優れたサーバーや、サーバーを液浸(冷却液に入れて直接冷却する)するシステムも開発しています。データセンターにそれらが実際に設置されていくことで、消費電力の削減が図れます」(山崎氏)

富士通が開発した「液浸冷却システム」を使うと、サーバーを冷やすために使用していた空冷式の空調設備や冷却ファンが「実質、必要なくなる」(山崎氏)という。従来型のサーバーシステムから消費電力を40%削減できるとしており、このシステムは、省エネルギーセンターが主催する平成30年度省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門で「資源エネルギー庁長官賞(節電分野)」を受賞、高い評価を受けている。

そして、富士通が省エネと同様に力を入れるのが、再エネの導入だ。2017年にビジョンを策定した1年後には、使用電力の100%を自然エネルギー由来とすることを目指す国際イニシアティブ「RE100」への参加を宣言している。

「弊社の海外拠点、特に欧州では再エネの導入が進んでいます。欧州は再エネのオプション(取引方法)も豊富で、価格もかなり安い。普通の電力と同じくらいの値段で買える市場が整ってきています。国によって少しずつ異なりますが、基本的には電力会社が再エネ証書を組み合わせて提供してくれているので、それをコストなどの面から検討し、導入しています」(山崎氏)

山崎氏は、各企業がカーボンニュートラルやゼロエミッションのために努力していくことはもちろんだが、同時に国の制度の拡充や市場拡大など、「社会全体で目標を実現していくための枠組みづくりが重要」だと説く。

「われわれとしては、経済合理性を追求しながら、自社で改善できる点は着実に追求していこうと考えています。また、われわれ自体が省エネや再エネの普及に役立つソリューションを提供し、制度設計や市場拡大に貢献していきたい。そのような考えから、本社工場がある川崎では、市と連携して再エネをテーマにした実証実験も行っています。また、ブロックチェーンプラットフォーム上で余剰電力の需給をマッチングさせる研究開発(下図)にも取り組んでいます」(山崎氏)

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需給をマッチングさせる電力の需要家間取引システムの概念図。取引記録はブロックチェーン上に残されていく

画像協力:富士通株式会社

その他、新たに開発した電力変換装置により、大学との共同研究において世界最高効率の水素製造に成功している。また、再エネ100%や脱炭素化を目指す企業・団体グループ向けに、データをシェア・利用できるWEBプラットフォーム「Virtuora DX」の運用を開始する。

「まずは国内100社以上のメンバーでスタートします。メンバー間で再エネ供給やエネルギー使用量などさまざまなデータや情報を共有でき、市場の活性化やマッチングを加速させていくという取り組みです。われわれは黒子的な役割ではありますが、そういったシーンでも弊社のソリューションをご活用いただきます」(山崎氏)

Virtuora DXの仕組み。再エネや脱炭素化のニーズや技術、事例、課題などを登録し、共有できる

画像協力:富士通株式会社

炭素排出量削減、最大の壁「コスト」を打開するには

CO2排出量ゼロに向けたさまざまな施策や活動に邁進する山崎氏は、カーボンニュートラルやゼロエミッションなどのプロジェクトについて、「無理のある取り組みは続かないでしょう」と強調する。

一企業が削減できるCO2排出量には限界がある。それに、企業活動の目的が利益の追求である以上、カーボンニュートラルが「社会全体のメリット」として受け入れられる状況を生み出さない限り、コストを“自社で持ち出し続ける”しかなくなる。

言い換えれば、カーボンニュートラルが制度的にもコスト的にも無理のない世の中の仕組みが成り立たなければ、個人と企業、そして地球環境とWin-Winな関係は構築できない。

「やはり最も大きな課題はコストだと思います。再エネのコストをいかに下げられるか。これからは、その仕組みづくりが重要になるでしょう。需要と供給による電力の融通などは解決策の一つであり、さらに自動でマッチングできるようになればコストは下がるはず。もちろん、いろいろな制度上の制約もありますから、それほど単純な話ではありませんが、いずれにしても再エネを普及させてコストを下げていくというのは、社会的に取り組まなければならないでしょう。それに、日本ではRE100に加入しているメンバー企業が25社まで増えています。皆さんとても工夫されていて、オリジナリティもあるので、われわれも勉強になることがとても多いです」(川田氏)

両氏は富士通の宣言を実現していくにあたり、欧米企業のベンチマーキングも欠かさない。

「欧米企業は、再エネの質や特性も重要視しています。中には『追加性』という考え方があって、既に稼働しているところから買っても仕方がなく、利用することをきっかけに、新しく再エネ自体が増えていかないと意味がないという原則・ポリシーです。また、再エネの導入の仕方も、とても参考になります。欧米の大手企業では、バランスやコスト、調達性などを考慮して、ポートフォリオをしっかりと設計している。『世の中にいいから、コストが高くても仕方がない』ではなく、しっかりと持続的に使えるよう戦略や調達策を練っているのです」(山崎氏)

また欧米企業の場合、「ドラスティックな考え方をするのも特徴だ」と川田氏は言う。例えば、電力や熱の消費量を抑えるため寒い地域にインフラを建てたり、施設の横に植物公園を設置したりするという。カーボンニュートラルを最適化するバウンダリー(境界線)を地域全体やシステムの系まで広げて大胆に構想しているのだ。

一方の日本は、一企業の目立った動きよりも、国内が一丸となって底上げできる仕組みづくりの方が進んでいるようだ。これからの時代は、中小企業もゼロエミッションやカーボンニュートラルに取り組むことが重要になるということから、2019年10月9日に「再エネ100宣言 RE Action」というイニシアティブが新たに発足した。

2019年10月9日発足時点の「再エネ100宣言 RE Action」(11月1日現在では36団体)。自治体、大学、企業とバラエティに富む

出典)再エネ100宣言 RE Action公式サイトより引用

前述したRE100は、一定規模以上の電力を使用する大企業しか参加することができないという基準がある。そこで、企業や自治体、教育・医療機関といったあらゆる電力需要家団体に向けて、再エネ100宣言 RE Actionは立ち上げられた。

「多くの民間企業や自治体が参画することで、CO2排出量削減に向けたマーケットは拡大していくはず。そうなれば、より無理のない形でサステイナブルな企業活動やプロジェクトが実現していくと思います。弊社は社会課題に積極的に触れ、解決策を模索する過程で新たな商機をつかむという経営スタイルを強化しようとしていますが、カーボンニュートラルやゼロエミッションについてもコストや義務ではなく、社会全体のチャンスにできるよう、われわれの役割を果たしていきたいと思っています」(山崎氏)

企業にとって、カーボンニュートラルやゼロエミッションが、社会貢献のための“負担”ではなく、経営戦略的な“チャンス”や“メリット”につながる世界。それが実現してこそ、CO2排出量削減に向けた取り組みは、人間社会で真の市民権を得られるのかもしれない。

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