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電動モビリティの「いま」と「みらい」

課題は航続距離と出力、充電。バイクの老舗・ヤマハが挑む電動スクーターの未来

ユーザー目線の車両開発で電動バイクの普及促進を図る

2020年12月22日、政府が打ち出した「2030年代半ばまでに純ガソリン車の新車販売をやめ電動車にする目標」に、それまで除外されると思われた軽自動車も含まれることが報道された。また、二輪車は対象外だが、小池百合子東京都知事が独自の環境規制案として2035年までにガソリンのみで動く二輪車の新車販売を規制すると発表。二輪車の電動化も加速度を上げていくことが予想される。老舗メーカーとして、この劇的な変化にいち早く対応しているヤマハ発動機株式会社に、国内外の状況も踏まえながら二輪車の電動化について聞いた。

EUをはじめ電動車の感度が高い海外からも好評価

2019年10月24日から11月4日まで開催され、延べ130万900人ものクルマやバイクファンでにぎわった「東京モーターショー2019」。

「OPEN FUTURE」をテーマにした本イベントでメーカーやユーザーが熱視線を送ったのは、流線型ボディーの近未来的デザインが美しい電動モビリティたち。中でも国内はもとより、海外からも高い評価を得たのがヤマハ発動機株式会社の発表した電動スクーター「E01」「E02」だ。

「電動モビリティへの関心や期待値が高い国、主にヨーロッパ諸国や台湾などですが、“ヤマハの未来のカタチ”として『E01』『E02』に関しては一定の評価は頂けたと思っています。一方、国内のユーザーからも、未来感を打ち出したデザインの良さなど、好感を持っていただけたのではないでしょうか」

そう手応えを語るのは、同社ランドモビリティ事業本部 MC事業部グローバルブランディング統括部の統括部長である樋口 健氏だ。

2020年1月、商品企画機能とマーケティング機能を統合したグローバルブランディング統括部の新設に伴い、統括部長に就任した樋口氏

改めて2台のコンセプトを、同事業部イノベーショングループ リーダーの小谷野英治氏に説明してもらった。

「まず『E01』ですが、郊外から都市部への通勤などに適した、ある程度の航続距離とスピードを求めるユーザーに向けた車両となります。満充電で100kmの航続距離を誇る大型のバッテリーを搭載し、ガソリン車の125ccクラスと同等の性能とパワーを実現しました。一方の『E02』は、買い物などの短距離移動で利用するユーザー向けの小型車両です。バッテリーを外して家の中に持ち込んで充電できるので、より手軽で使いやすい一台となっています。また、どちらにもメットインのスペースがあり、荷物や予備のバッテリーを収納できるようになっています」※予備バッテリーはE02のみ

「過疎化の進んでいる地域ではガソリンスタンドの統廃合も多く、そういったエリアからは家庭で充電できる二輪の電動化が大いに期待されています」と小谷野氏

ヤマハがたどってきた歴史があるからこその開発の手応え

「東京モーターショー2019」開催時、日高(※「高」はハシゴダカ)祥博社長のインタビューでは「来年中(2020年)には発売できるということで開発を進めている」とのコメントもあったが、昨今の新型コロナウイルスの影響もあり、実現には至っていない。

このような状況もあり、世間的な感覚としてはモビリティの電動化は四輪の方がより進んでいる印象がある。

「おっしゃるとおり四輪と比較すると、二輪の電動化のニュースは少ない印象があるかもしれません。しかし、世界を見渡してみると、スクータータイプを中心にバイクの電動化もかなり進んでいると私自身は感じています。大なり小なり、新型コロナウイルスの影響はわれわれの業界でもありますが、現在もできるところから進めていこうというスタンスで取り組んでいます」(樋口氏)

電動化に自信をのぞかせる樋口氏のコメント。その背景には、これまでヤマハが歩みを進めてきた市販電動二輪車の歴史がある。

2002年の「Passol」を皮切りに、「EC-02」(2005年)、「EC-03」(2010年)、バラエティー番組「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(テレビ東京系)でもおなじみ、現時点で国内唯一の電動市販車となる「E-Vino」(2014年)。そして、台湾メーカー「Gogoro」と組んで現地のみで販売されている「EC-05」(2019年)と、次々に電動二輪車を世に送り出してきた。

「軽くて、女性にも手軽に使っていただけるコンセプトの『Passol』に始まり、『EC-02』『EC-03』では“遊び心”も加えました。そして『E-Vino』でいよいよ本格的に電動車がガソリン車に置き換わることにチャレンジしてきたのです。この歴史には、1993年から手掛けている電動アシスト自転車で培ってきた技術やアイデアが欠かせません」(樋口氏)

ヤマハには、電動アシスト自転車のヒット作「PAS」シリーズがある。子供乗せ自転車から通勤自転車まで用途に応じた各種ラインアップで多くの支持を集めている。

「自転車は軽量化への要求が電動二輪車よりも高くなります。そのときに培った知見を、電動二輪車を開発する際にも活用しています。また、モーターの出力をどうコントロールすれば、ユーザーがより気持ちよく走ることができるかといった“制御系のノウハウ”に関しても、自転車開発時の研究成果が大いに役立っています」(樋口氏)

モーターは“アクセルコントロール”と“制御”がかみ合わないと、乗り心地がギクシャクしてしまう。逆に言えば、ここをコントロールできれば、気持ちいい乗り心地が実現できるという。

新時代のスポーティーさを表現した「E01」。まるで漫画やSF世界から飛び出してきたようなデザインは、見ているだけでワクワクする

ボディーの小型&軽量化を追求し、女性でも扱いやすい操作性の高さが特徴の「E02」。電動ならではの滑らかな走りを実現し、EVをより楽しく、カジュアルに感じられる新たな価値を提案している

新たなコンセプトを具現化した「E01」「E02」への期待が大きかったことは、それだけヤマハの高い技術力が広く認められている証しともいえる。

では国内にとどまらない、グローバルな視点で見たときに樋口氏が見据えるものはなんだろうか。

「2010年代の半ばから、クルマやバイクの電動化、もっと大きく言えば『CO2排出ゼロ社会へ』という動きが、国内外で非常に大きくなっていると感じています。そうした中で、二輪の世界で最も電動化が進んでいるのは台湾と中国です。それは政府からの補助が潤沢にあることも理由の一つ。具体的には台湾は電動車に対する補助金や政策があり、中国は大都市へのガソリン車の乗り入れ禁止規制があります」

このような背景もあってモビリティの電動化が進んだわけだが、共通して言えるのは密集した大都市圏内での移動にバイクを使っているということだ。

特に台湾は1人1台、二輪車を持っていると言われており、さらに短距離移動はスクーター、中長距離ではオートバイと、ユーザーも使い分けているという。

固定式リチウムイオン電池を搭載した「E01」は、急速充電にも対応。一方の「E02」はよりタウンユースしやすいようにバッテリー脱着式が採用されている

EUでは政府側の補助政策が積極的で、米国も特にカリフォルニア州でモビリティ電動化への検討が進んでいる。

「われわれが手掛ける電動二輪車の今後の普及に関しては、国内外の状況を注視しながら検討していこうと思っています。国内は今後の補助政策などの動き、海外は台湾や中国、東南アジア圏など、大都市でたくさんの人が二輪車を使っている国の情勢が重要になりますね」(樋口氏)

航続距離と出力と充電。3つのバランスの難しさ

バイクの電動化に関する技術的なハードルについても樋口氏に語ってもらった。

「前述のとおり、二輪車のユーザーには都市部などの短距離利用、ツーリングなど長距離利用いずれの方もいます。そこに二輪電動化のハードルが隠れているのです。ネックとなるのは、主に航続距離と出力と充電の3つですね」

それらのパフォーマンスのもととなるのはバッテリーだ。サイズ的にも大きく、バッテリーを置くスペースを確保しやすい四輪車に比べ、二輪車はどうしても小さく、狭い。

「例えばそこに電気容量を優先して大きく、重いバッテリーを置くことも可能です。しかし二輪車には、押して歩かなければならないシチュエーションが必ずあります。あまりに重いバッテリーだったり、予備バッテリーを積むとなると、小柄な方や女性だとどうしても押すことができません。その辺りのバランスを考えるのが、非常に難しいですね」

さらに樋口氏は他にも課題があると言う。

それは給電だ。

「例えばツーリングに行くタイプのユーザーだと、家庭で満充電してもバッテリーが絶対にもたなくなります。そういった方たちに安心して利用してもらえるように、給電の仕方は考えなければなりません。現在、例えば乾電池のように交換して動力を得る交換式バッテリーや、急速充電タイプのバッテリーなどの技術開発を徹底的に行っています」

しかし、二輪メーカーが高性能なバッテリーを作れば問題が解決するほど事は簡単ではない。

「インフラの整備が必要不可欠ですね。ガソリンスタンドのように、街中に充電できる場所が整っている必要があります。二輪のEV化の難しいところの一つがこれで、われわれのような車両製造メーカーに加え、政府、充電システムを構築するメーカーが三位一体で取り組まないと、二輪の電動化はなかなか進んでいかないのではないかと思っています」

EVのための充電ポートは近年増加傾向にあるが、二輪用となるとまだ少ない。ヤマハを含むホンダ、カワサキ、スズキの国内大手4社は2019年、交換式バッテリーとバッテリーを交換するためのシステムの仕様を協議するコンソーシアムを設立。将来的にバッテリーの規格が統一されればインフラ整備も進んでいくと期待される。

さらには販売面でも苦しみはあるようだ。小谷野氏が補足する。

「われわれの自社ブランドには、性能が優れるガソリン車が安価であります。それと競合しなければならないというのは、販売面での苦しみですね。そういった意味では、出川さんの番組などは、われわれが伝えたい“このくらい充電すれば、実際このくらいの距離を走れるんですよ”といった、電動スクーターの魅力や手軽さを見せてくれているので、ありがたいですね(笑)」

感動創造企業だからこそ受け継いでいくDNA

「ガソリン車と異なり音が静か」「ガソリンスタンドがない地域でも利用できる」「環境面での配慮」といったメリットがある二輪の電動化。

さらに近い未来、コネクテッドカー(インターネットへの接続機能を有するクルマ)のように、二輪でも通信サービスとの連携が基本となるのだろうか。

将来的なビジョンと共に、樋口氏に解説してもらった。

「コネクテッドカーのような、未来的な機能に関しては、既に社会がそういった方向に動いてくるので、二輪もその流れに乗ると思います。世の中の流れに追随していかなければ、交通手段の悪者となり、本当の意味での安全運転は実現しませんから」

海外に目を向ければ、すでにインドネシアでは『コネクテッドバイク』というコンセプトで、オートバイと携帯電話がつながるサービスが始まっている。

「環境に対しては、2050年の『温室効果ガス排出量80%削減』の目標にのっとっていきます。昨今の動きを見ていますと、われわれの研究や開発も加速させる必要があることは十分に理解しています」

ただし、そのような状況下にあっても「ヤマハがこれまで大事にしてきたフィロソフィーは決してなくならない」と樋口氏は言う。

「バイクやクルマの電動化への動きは、今後ますます加速度を上げていくでしょう。しかし、ヤマハの理念は『感動創造企業』です。バイク本来の、扱って楽しいというライダーたちの思いや、遊び心といった面を忘れることはありません。そんなDNAを継承し、うまく電動化を進めていければと思っています」

「E01」「E02」の発表を足掛かりに、ヤマハが打ち出す“電動化、コネクテッドなどの未来的な開発”と“従来のファンも納得の遊び心”が融合し、われわれにさらなる感動を与えてくれることを期待したい。

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