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シームレスに人の暮らしとつながる電気自動車! ホンダが「Honda e」で描く少し先の未来

【クルマ】高い充電効率による使い勝手の良さと快適さを両立した「Honda e」

2020年12月、日本政府は国内の新車販売に関して、2030年代半ばにはガソリン車の販売を禁止し、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)など「電動車」のみとする目標を設ける方針を打ち出した。一方、欧州では「パリ協定」の実現を目指し、「CAFE(Corporate Average Fuel Economyまたはefficiency)規制」を厳格化。ことしからEUで車を販売する全メーカーの全車平均で走行1kmあたりのCO2排出量を95g/km以下に抑えるように求めている。このように世界的な電動化推進基調のなか今回注目したのは、2020年、ホンダが欧州と日本で販売を開始した初の量産型EV「Honda e」だ。車両の開発責任者である、本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンターの一瀬智史シニアチーフエンジニアにコンセプトや特徴、電動化の先に見る未来について伺った。

ホンダらしい、新しいEVを生み出すために考えたこと

「Honda e」の開発にあたり、設定された目標は3つ。

1つ目は当然ながら「環境問題への対応」だ。

しかし、一口に環境対応といっても、その対象は広すぎる。そこで欧州でのCAFE規制対応も考慮して、人口が集中する街中で使いやすいEVの開発を優先することになった。開発責任者で本田技研工業株式会社の一瀬智史氏もこう話す。

「まずCAFE規制とは、企業平均燃費を自動車メーカーが販売する全モデルの平均燃費から算出し、規制をかけるものです。厳守しないと高額なペナルティーを支払うことになります。元々は1970年代後半からあるもので、ホンダもCAFE規制を見据えた対応を検討してきました。『Honda e』は、それをカタチにしたものと言えますね」

ホンダ入社後、エクステリア設計に長く関わり、2016年からHonda eの車両開発に携わってきた一瀬氏

2つ目は「未来を見据える」こと。

「単純にコンパクトなEVを作るなら弊社の代表的なコンパクトカーである『フィット』を電動化すれば良かったのです。しかし、私たちはCASE(「Connected<コネクテッド>」「Autonomous<自動運転>」「Shared & Services<共有化&サービス>」「Electric<電動化>」の頭文字をつなげたもの)やMaaS(「Mobility as a Service」の略で、公共交通機関など多種多様な移動手段を最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で提供するサービス)など、モビリティが迎えている100年に一度と呼ばれる変化をリードするクルマにしたかったのです」

イメージしたのは2030年頃の社会だ。

「恐らく、世の中全部がシームレスにつながっているだろうと想像しました。V2H(「クルマ<Vehicle>から家<Home>へ」を意味し、EVに蓄えられた電力を、家庭用に有効活用する考え方)もそうですが、普段の生活をそのまま持ち込めるようなクルマですね。音楽を楽しんだり、ソファに座っているような快適さだったり、あるいは車内で仕事ができたりと。そんなふうにライフスタイルとクルマがより境目なくつながる未来をカタチにしたいと考えました」

サイドミラーの代わりにカメラが備わり、映像はインパネの左右に映し出される。Honda eのエクステリアの大きな特徴の一つだ

3つ目は「ホンダらしさ」。

自動車レースのF1やインディでの活躍もあり、ホンダには走りの良さを求める声が多い。

「それは十二分に分かっていますが、ホンダのクルマ作りはそれだけではありません。いろいろなことを徹底的に追求し、ゼロベースで考えていく中で結果的にユニークなものを生み出し、それが皆さんに認められる。そこがホンダらしさであり、今回の『Honda e』にも私たちがこだわって考え続けたものが詰まっています」

目玉のように大きな丸形のライトがついた、まるで人の顔のようなフロントマスクと、面で構成されたツルッとしたボディが印象的なHonda e。このデザインを一瀬氏は「ツルピカ(無駄な突起を排除した)デザイン」と呼ぶ

一瀬氏が言う3つの目標は、Honda eの外観スタイリングやインテリアにも表れている。

「EVは“人に近い存在”なのです。音は静かだし、排ガスも出ません。特に街中では人に近づきますよね。だから人との親和性が高いデザインにしました」

その結果生まれたのが、一瀬氏がツルピカデザインと呼ぶ、とんがったところのないデザイン。同社がかつて作っていたロボット「ASIMO」をどことなく思い出させる。

またインテリアについては、一瀬氏が「シートはソファのようですよ」と言うように、リビングルームからシームレスにつながるイメージを重要視した。

「クルマが止まっている時間の価値が重要ではないか、と議論していました。例えば、Honda eは公共の急速充電を使えば約30分で80%の充電量となります。この30分間をどのように捉えるか。外に出て買い物やお茶を飲んでもいいのですが、車内にいても快適に過ごせる空間にしたかったのです」

5つのスクリーンを水平配置することで、全面が液晶モニターとなったインパネ周り

ルームライトにLEDのダウンライトを採用することでリビングルームのような雰囲気を演出

環境対応と未来のライフスタイルにホンダらしさを掛け合わせることでHonda eは生まれた。

走りの良さとEVならではの電気の使いやすさを追求

走りにおけるポイントは、モーターを車体後部に置き、リアタイヤを駆動させるRR方式を採用したことだ。

「搭載するモーターは、『アコード』のプラグインハイブリッド車(PHEV)に搭載しているもの。最大出力は315N・m(ニュートン・メートル)と、ガソリンエンジンでいうと3.5リッターV6くらいのトルクがあります。ストップ&ゴーを繰り返す街中では、トルクが高い方が扱いやすいのです。そのモーターを後部に載せ、RR方式とすることでフロントが軽く、短くなり、タイヤがいっぱいに切れるため、最小回転半径も小さくできます。さらに車体前後の重量配分を50対50にしたことで、素直なハンドリングを実現しました」

クルマを左右に曲げようとすれば、当然ドライバーはハンドルを切る。そのとき、あまり意識していないがハンドルを切ってから少し間を置いてクルマは曲がっていく。

このタイムラグに影響するのが重量配分だ。クルマの真ん中、そして低い位置に重心があるクルマほどハンドルを切ってすぐに曲がり始める。その意味で50対50というのは、ベストな重量配分といえる。

ゆえにHonda eは、その動力性能も多くの自動車専門家から高評価を得ているという。

そんなEVの重量配分を考えるとき、課題となるのは重量物であるバッテリーだ。しかしEVを語るときに欠かすことのできない航続距離は、そのままバッテリーの容量と直結する。それを無駄にせず「街中ベスト」なEVを実現するために、どんなバッテリーを載せようとしたのか。

Honda eの心臓部ともいえるバッテリーやモーター。EVは床面をフラットにできるため、居住空間の確保はもちろん、底面を流れる空気の流れも制御しやすくなるという

「優先したのはクルマのサイズです。ヨーロッパに視察に行った際、他社のEVに乗って縦列駐車のために何度も切り返しをする年配の方を見かけたことがあります。それを毎日繰り返すのはやはりストレスですよね。だからこそ、小さいサイズと小回りが利くクルマにこだわりました。そして、そのサイズに載せられる高出力型リチウムイオンバッテリーを求めたら、35.5kWhという容量になりました」

そのバッテリーによるHonda eの1回の充電走行距離は283km(WLTCモード:国際的な走行モード)だ。これは例えば、日産リーフeプラスの458km(WLTCモード)に比べると60%ほどとなる。

しかし1回の充電時間はといえば、リーフeプラスの半分程度で済むという。※いずれも急速充電時

フロントに備わる給電口。左側が急速充電の国際標準規格・CHAdeMO(チャデモ)に対応し、右が家庭などで行う普通充電用となる

もちろんこれはどちらが優れているということではない。

ホンダの調べによると「1日の走行距離は90km以内という人がおよそ9割」だという。

Honda eは「街中ベスト」を目指す中で、その用途に合わせたバッテリー容量を考え、航続距離よりもクイックな充電を求めたのだ。

社会の未来を考え、そこに必要なプロダクトをつくる

Honda eが使用するバッテリーは、サプライヤーであるパナソニック株式会社とホンダが共同開発したものだ。

「バッテリーにはさまざまな種類があります。ノートパソコンに入っているようなタイプは容積の割には電気がたくさん入ります。一方、電動工具などに使われているものは容量が小さいけれど一気に充電できてパワーも出せます。今回のHonda eに採用したのは、その中間くらい。EVのバッテリーとしては電気がたくさん入るわけではないですが、すぐに充電ができます」

一瀬氏は「要は必要になったら充電すればよい、という考え方・方向性ですね」と話す。その振り切った思考が、EVの航続距離という課題に対してHonda eが提案する一つの答えだ。

もちろん、それによってユーザーの使い勝手を阻害しないよう、エネルギー管理などにも最新技術が投入された。

バッテリーは低温時には出力が低下し、高温になると充電時間が伸びるという特徴がある。そこで、Honda eはバッテリー専用ヒーターやラジエーターを利用した水冷システムを採用することで、バッテリーの温度管理を徹底した。

また、シチュエーションに応じて最大充電量を設定することも可能だ。

「例えば、坂の上に自宅があって、そこで充電を100%にしてしまうと走り出しが下り坂となり、ブレーキで得られる回生エネルギーを捨てることになり、もったいないですよね。その場合、少し少なめに充電しておくように設定しておけば、充電に使う家庭の電力消費を節約できます」

またEVといえば、災害時の非常用電源としての活用にも注目が集まる。

「災害対応についていえば、ホンダは以前から取り組んでいます。充電ケーブル用のCHAdeMOにPower Exporter 9000という給電器を接続することですぐに使用可能です。加えて言えば、Honda eは、そのような給電器を使わなくても使える100Vのコンセントを備えています。だから、本当にリビングにいるような感覚で一般的な家電製品を使うことができますよ」
※給電器に関する記事→「被災地でも迅速給電! TOYOTA×HONDAの強力タッグで生まれたバス発電所システム」

センターコンソールに備わる100Vのコンセント。「ホットプレートをつないで焼肉もできますよ」と一瀬氏は笑う。車両本体価格は451万~495万円

そんな使い勝手も含めて「街中ベスト」を目標にデビューしたHonda e。

だが、その開発ターゲットは2030年の社会にフィットすることだと一瀬氏は冒頭に語った。それは奇しくも、政府が打ち出した目標とも符合する。

「あくまで偶然で、私たちは自然とそこをターゲットに設定していました。ただ、これまでのクルマの開発目標と少し違うのは、自動車の未来だけではなく、未来の社会がどうなっているだろう?ということを必死に考えた点です。

5Gなど通信システムはどうなっているか?それによってクルマと社会の関わりはどんなふうに変化しているか?そのイメージを膨らませた結果、見えてきたのがシームレスな社会です。だとしたら、そこで必要とされるクルマとはどんなものなのか、ということを考えました」

2030年代までは、まだあと9年ある。その間に社会がどのように変化しているかを正確に予想することは誰にもできないが、想像して提案することはできる。

「EVというのは、単なる駆動方式の一つにすぎません。でも、私たちが作り出すものは、社会や環境に適合したパッケージプロダクトにしたいのです。つまり、これからの世の中に必要なものは何か?それを考えていく中で『街中』であれば、コンパクトなEVが必要になってくると考えた結果、誕生したのがHonda eということですね」

少し先の未来に描く暮らしを、市販のEVというカタチで体現したHonda e──。

2030年を先取りしたモビリティとなるのか、これから注目していきたい。

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